ヘルスサービスリサーチ講座

ヘルスサービスリサーチ講座へようこそ

1.ヘルスサービスリサーチとは
ヘルスサービスリサーチ(Health Services Research)とは、疾患の疫学や医薬品などの治療効果等に関する臨床疫学研究から、医療サービスの構造(structure)・プロセス(process)・アウトカム(outcome)、医療の質評価、医療経済分析、医療サービス資源配分や財政分析に至るまで幅広くカバーする学際的な研究領域である。
ヘルスサービスリサーチは公共健康医学(public health)の一分野でありつつ、臨床医学領域とも深い関わりがある。ヘルスサービスリサーチの研究対象のドメインは、患者個人、家族、医療施設、地域社会、国全体など広範にわたる。(Lohr KN, Steinwachs DM. Health services research: an evolving definition of the field. Health Serv Res. 2002;37: 7-9)。
欧米ではヘルスサービスリサーチに関わる講座が多数設置されているものの、我が国ではまだ非常に少ない。そのために当該領域研究は我が国では立ち遅れている現状である。
しかしながら我が国においても、ヘルスサービスリサーチの重要性が2000年代から注目されてきている。2007年12月の内閣府規制改革会議「規制改革推進のための第2次答申」においても、「質の高い医療が適切に行われるには,治療法など個々の要素技術の開発とともに,これらを総体として運用するシステムについても検討されなければならない。(中略)ヘルスサービスリサーチは,近年,世界的に注目されているにも関わらず,日本では研究体制,データ利用の環境整備など,いまだ不十分な状況にある」と指摘されている。

2.ヘルスサービスリサーチ講座の目的
(1)超高齢社会における持続可能な医療の実現に資するヘルスサービスリサーチの実践と方法論の開発・普及
(2)ヘルスサービスリサーチに関わる研究者やアナリストの人材育成

3.研究課題
上記の目的を達成するために、「ヘルスサービスリサーチ講座」は協力講座と密に連携しつつ、大規模データベースを用いて、以下の個別課題に取り組む。
(1)呼吸器疾患を中心とした各種疾患や治療の臨床疫学・経済分析
(2)西洋医学・東洋医学を含めた多くの要素技術に関する効果分析、医療経済分析
(3)超高齢化による人口動態変動と医療サービス必要量に関する分析
(4)医療従事者、医療施設・設備等の医療サービス資源の効率的配分に関する分析 等々
用いる大規模データは、Diagnosis Procedure Combination (DPC)データ、全国レセプト(NDB)データ、医療施設調査・病院報告、医師・歯科医師・薬剤師調査、患者調査、受療行動調査、介護給付費実態調査、介護サービス施設・事業所調査、人口動態統計、国勢調査、など多岐にわたる。
呼吸器疾患は、人口高齢化や環境要因の悪化等により、今後ますます増加する傾向にある。肺癌は悪性腫瘍のうち首位を占める。肺炎は脳卒中を抜いて死因第3位を占め、さらに今後はCOPDが死因第5位に上昇することが予想されている。また、ARDS、間質性肺炎など呼吸不全を呈する炎症性疾患は、難治かつ致死的である点において極めて重要な疾患群といえる。これらの理由により、当講座では呼吸器疾患のヘルスサービスリサーチを重点分野のひとつに据えることとする。
要素技術の分析については、既存の西洋薬のみならず漢方薬も含めた医薬品、および医療機器・材料などの効果分析および費用効果分析などの医療経済分析を行う。

4.期待される効果
大規模データベースを用いた分析を実践し、様々な分野におけるエビデンスを量産するとともに、ヘルスサービスリサーチの方法論を確立する。それらの成果の学会・論文発表を活発に行う。さらに多くの若手研究者との共同研究を通じて、ヘルスサービスリサーチに関わる研究者やアナリストの人材育成を進める。
これらの活動を通じて「ヘルスサービスリサーチ講座」は、すべての人々がよりよい医療サービスを受けられるための種々のレベルにおける有効な仕組みを明らかにし、エビデンスに基づく臨床的・医療政策的提言を国内外に向け発信する。